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がんの放射線治療
放射線治療

放射線治療のガイド|知って安心、がん治療の選択肢

2024.01.30
最新更新日 2024.04.02

がんと診断された際、治療法を選択することはしばしば複雑で心理的にも負担が大きい決断です。
その中で放射線治療は、一つの選択肢として患者と医療チームによって検討されます。放射線治療は、細胞をターゲットにし、がん細胞の成長を抑制する方法ですが、その過程や効果に関する理解が不十分なため、患者の中には不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。

本記事では、放射線治療についての理解を深め、不安を取り除くための情報を提供します。放射線治療がどのようなものか、その効果や副作用、適応など、患者が治療選択をする際のサポートとなる情報を幅広く取り上げていきます。

がん治療の選択肢としての放射線治療

放射線治療ががん治療においてどのような位置づけにあるか

がん治療の三本柱といえば、手術、薬物療法(抗がん剤治療・分子標的薬剤による治療・免疫療法など)、放射線治療です。

放射線治療は、照射された部分にだげ影響を与える局所療法のひとつです。
放射線治療技術がよくなってきた結果、今までは手術でしか治らなかったがんの中にも、放射線で治療が可能なものが増えきました。ただし、早期でがんが原発部位に限局していることが必要です。こういった治療は根治的放射線治療とよばれます。

一方、残念ながらがんが進行してしまった場合でも、腫瘍の増大や転移などによる痛みなどの症状を、放射線治療により緩和、軽減させることもできます。緩和的放射線治療といいます。
このように放射線治療は、様々のがんのあらゆるステージでがん治療の選択肢の一つとなりえます。

他の治療法との比較や併用が重要な場合の例示

局所療法で、照射されたところ以外には影響が出ませんので、全身的な副作用はほとんどありません。薬物療法との違いといえるでしょう。
手術との比較では、切らずに治すので、機能や形態を温存できる利点があります。
放射線治療、手術、薬物療法を組み合わせて治療する場合があります。集学的治療と言われています。

  • 乳癌では手術で腫瘍をした後、残った乳房に放射線治療をすることで再発を防止します。
  • 直腸癌では、術前に抗がん剤と放射線治療をすることで腫瘍を縮小させ、手術をしやすくすることがあります。
  • 抗がん剤と放射線治療の併用により、相乗効果(それぞれの効果の足し算よりプラスアルファの効果)が期待されます。
  • ほかにも、ホルモン療法との併用や、温熱療法との併用が有効な場合もあります。

放射線治療の仕組みと効果

放射線治療のメカニズムやがん細胞への影響についてわかりやすく解説

放射線治療のターゲットはがん細胞の核内にあるDNAです。
DNAは生物の遺伝情報を持つ分子で、二本の鎖がらせん状に絡まったような構造(二重らせん構造)をしています。DNAは細胞分裂の際に複製(コピー)され、情報が新しい細胞にそのまま受け継がれていきます。
放射線はDNAの二重らせん構造を切断する力を持っています。放射線治療によりがん細胞内のDNAの二重らせん構造が切断されると、がん細胞の遺伝情報が損傷します。これにより、がん細胞の正確な情報伝達が阻害され、正常な細胞分裂や増殖ができなくなり、死に至ります。

正常細胞のDNAも放射線が当たると損傷を受けます。放射線治療の成功は、いかにして正常細胞のDNAの損傷を最小限にしながらがん細胞のDNAの損傷を最大限にするかにかかっています。

がん細胞は通常、正常な細胞よりも異常な増殖を示します。損傷したDNAを用いて増殖しようとすればするほど細胞のダメージは強くなるわけですから、がん細胞は正常細胞よりの放射線に対する感受性が高い傾向にあります。

DNAの切断や損傷がある場合、細胞は自己修復メカニズムを使って修復を試みます。しかし、一般に、がん細胞の修復能力は正常細胞よりも低いことが多いです。放射線治療では、この性質を利用してより効率よく治療効果を高めています。「分割照射」がそれです。
一度の照射で、正常細胞もがん細胞もDNAに損傷を受けたとしても、時間がたてば(通常は1日)正常細胞は修復を終えて回復、がん細胞はあまり回復しません。この段階で次の照射を行えば、正常細胞を守りながらがん細胞にダメージを与えることができます。これを繰り返し行っていくのが分割照射です。

正常細胞になるべく放射線が照射されないようにすることも正常細胞を守る重要な方法です。
多方向から照射することにより正常臓器に照射される線量を分散します(多門照射)。これをさらに精度よく正常臓器への線量を減らす方法が高精度放射線治療です。

放射線治療が与える効果や予想される結果について

放射線治療は、がん細胞を標的とすることで、腫瘍の縮小や消失を促すことが期待されます。例えば、乳がんに対する放射線治療では、手術後に残っている可能性のある微小ながん細胞を除去するため、再発リスクを低減する効果が期待されます。

また、脳腫瘍に対する放射線治療では、腫瘍の成長を抑制することで症状の進行を遅らせ、患者の生活の質を向上させることが可能です。放射線はがん細胞の分裂を妨げ、増殖を抑制するため、症状の改善や長期的な腫瘍のコントロールが期待されます。

一方で、放射線治療による副作用も考慮する必要があります。皮膚の赤みや疲労感などの一時的な副作用から、長期的な影響として組織の変化が起こることもあります。しかし、多くの場合、これらの副作用は管理可能であり、医療チームとの協力によって症状を軽減する方法が用意されています。

治療の効果や予想される結果は、個々の症例やがんの種類によって異なります。医師や専門家との相談を通じて、患者ごとに最適な治療計画が立てられることが重要です。

治療過程と副作用についての理解

治療期間や頻度など、具体的なスケジュールについて

  • 放射線治療をすることが決まると、まず、治療計画用にCTを撮影します。
  • 撮影されたCTを用いて治療計画を立てます。通常、1~7日程度かかります。
  • 治療計画ができると、いよいよ照射開始です。もっとも一般的に行われている方法は、1日1回の照射を月から金曜日まで週5回行い、これを2から7週間(10から35回)程度繰り返します。
    ・放射線の腫瘍への集中性を高めて正常細胞への被曝を極力抑えた定位放射線治療(高精度放射線治療のひとつ)の場合、3から8回程度で照射します。
    ・骨転移に対する疼痛緩和目的の照射では、分割照射を行わず、1回の照射で終了する場合もあります。
  • 照射終了後は、治療効果判定や副作用の監視などを目的に継続してフォローすることが重要です。

副作用やその管理、対処法についての情報

放射線治療の副作用は、正常組織の放射線に対する反応です。したがって、照射されていない範囲に副作用がでることはほとんどありません。
たとえば、肺や前立腺に放射線治療をして髪の毛が抜けることはありません。

放射線治療の副作用の大半は発生する線量に閾値があり、その線量以下で発症することはほとんどありません。
放射線治療の副作用には照射期間中に発症する急性期有害事象と、照射終了後数か月から数年後に出現する晩期有害事象とがあります。

  • 急性期有害事象は、照射された臓器の炎症反応によっておこります。照射が終了すれば炎症反応は収束していきますので、必ず治る一時的な副作用です。症状が強い場合には、対症療法的に、抗炎症剤などを処方します。
  • 晩期有害事象は、放射線による臓器の変性などによっておこります。組織の硬化や瘢痕化、照射された臓器の障害などが生じ、いったん生じると元の状態に回復しない場合も多いです。したがって、放射線治療計画の段階で正常組織への照射線量を低く抑えています。このため、出現頻度は急性期有害事象よりもずっと低いです。

非常に稀ではありますが、放射線治療後に新たながんが発生するリスクが存在します。これは通常、数年から数十年後に発症することがあります。

不安や疑問への対処

治療中の心理的なサポートやリソースの活用方法

治療中、心理的な問題を抱えることは一般的です。しかし、専門家のカウンセリングやメンタルヘルスのサポートを受けることで、これらの感情に対処する方法を学び、心理的な負担を軽減することができます。不安やストレスを感じた時には遠慮なく医師や看護師にご相談ください。放射線治療を最後まで完遂できるよう、サポートいたします。

医療チームやサポートグループへの参加の重要性

がん治療は多くの場合、医療チームと患者の協力によって最良の結果が得られます。治療計画や進行についての理解を深めるために、医師や看護師、臨床心理士とのコミュニケーションを保つことが重要です。また、サポートグループへの参加は、他の患者や家族とのつながりを通じて情報共有や励まし合いが得られる貴重な機会です。経験を共有し合うことで、治療のストレスや不安を軽減し、希望や前向きな気持ちを持続させることができます。

放射線治療の適応と将来への展望

放射線治療の適切な症例について

放射線治療は局所療法ですので、根治を目指す場合は腫瘍が局所に限局している必要があります。早期の喉頭癌、肺癌、前立腺癌、子宮頚癌などです。

手術との組み合わせで根治を目指せる症例としては、乳癌や直腸癌などが挙げられます。
手術ができない場合などに抗がん剤と併用して治療する症例としては、食道癌や膵癌、子宮頚癌などがあります。

転移や再発をきたしてしまい、根治を望めない症例であっても、腫瘍による症状を和らげたり予防するためにも放射線治療は適切です。骨転移や脳転移に対する緩和的放射線治療がそれです。
放射線治療は、様々のがんのあらゆるステージでがん治療の選択肢の一つとなりえます。一度主治医と相談することをお勧めします。

新しい技術や将来の展望についての話題

放射線治療は今後も更なる発展を遂げていく可能性を持っています。

粒子線治療
放射線治療にもっともよく用いられているのは高エネルギーX線による治療ですが、重粒子線や陽子線、中性子線といった、X線とは物理学的、生物学的に異なる性質を持つ放射線を用いた治療がすでに始まっており、今後さらに発展していくことが予想されます。
高精度放射線治療
コンピュータや医療機器の発展により、さらに精密に、正確に照射を集中させる技術が期待されます。また、呼吸などにより移動する腫瘍を狙い撃ちする技術や、日々変化する腫瘍や臓器のかたちに対応して照射する技術も研究されています。
ほかの治療法との併用
新たながん治療薬がどんどん開発されていますので、それらの薬剤と放射線治療を組み合わせることでより強い抗腫瘍効果を発揮することができるようになるかもしれません。特に、免疫療法と放射線治療を併用することで自己の持つ免疫力が高められることが知られており、がん治療の新たな方法として注目されています。また、正常細胞に対する放射線の影響を低く抑える薬や、逆に、腫瘍の放射線感受性を高める薬の開発・研究なども行われています。

まとめ

放射線治療は、がん治療の重要な選択肢の一つであり、多くの患者にとって有益な結果をもたらします。治療の効果や副作用について理解することは、患者とその家族が治療を受ける上で自信を持って進むことができる基盤となります。また、心理的なサポートや医療チームとのコミュニケーション、サポートグループへの参加は、治療過程での不安や疑問に対処するための貴重な手段です。将来への展望も含め、放射線治療の適応と可能性についての知識を深めることが、治療の成功につながる一歩となるでしょう。

最善のケアを受けながら、健康的な未来を築くためのサポートが常に用意されています。がんと診断されたなら、放射線治療の可能性について考えてみられ、一度放射線治療専門医に相談することを強くお勧めします。

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  • 高橋 正嗣
  • 彩都友紘会病院 医局長、放射線科部長

専門分野:放射線治療、高精度放射線治療全般
専門医資格:放射線科専門医、日本放射線腫瘍学会認定医、日本医学放射線学会研修指導者

〒567-0085 大阪府茨木市彩都あさぎ7丁目2番18号

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