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活性酸素のチカラと影 ~日常生活からがん治療まで~

2025.05.01
最新更新日 2025.05.01

【目に見えないけれど身近な存在「活性酸素」】

  • 私たちは毎日、酸素を吸って生きています。しかし、この「命の源」である酸素は、時に体を傷つける「刃」となることがあります。体内で酸素が変化して生まれる「活性酸素」は、細胞を酸化させ、老化や病気の原因になるといわれています。一方で、活性酸素は私たちの免疫を守る大切な働きも担っており、完全に「悪者」とは言い切れません。この記事では、活性酸素が持つ二面性についてわかりやすく解説し、さらにがん治療の一環である「放射線治療」と活性酸素の驚くべき関係に迫っていきます。

【活性酸素とは何か】

  • 「活性酸素」という言葉を聞いたことはありますか?これは、私たちが呼吸で取り入れる酸素の一部が体の中で変化して、とても反応しやすくなった状態の酸素のことを指します。簡単に言えば、「酸素が元気になりすぎて、いろいろなものにくっついてしまう」性質を持ったものです。
  • 活性酸素にはいくつかの種類がありますが、名前を覚える必要はありません。大切なのは、これらが体の中で自然にできるものであるということです。たとえば、エネルギーを作るときや、ウイルスや細菌をやっつけるときなど、私たちの体の働きの中で活性酸素は生まれます。
  • ただし、あまりにもたくさんできてしまうと、体にとって有害になります。そのため、体には活性酸素を抑える仕組みも備わっていて、通常はうまくバランスをとっているのです。

【活性酸素は悪者?それとも必要な存在?】

  • 活性酸素は、細胞にとって「両刃の剣」です。一見すると、活性酸素は体に悪影響を与える“悪者”のように思われがちですが、実は健康維持にも欠かせない「必要な存在」でもあります。

活性酸素の”良い面”

  • たとえば、私たちの体内には「免疫細胞」と呼ばれる病原体を攻撃する細胞があり、その中でも「白血球」は活性酸素を武器にしています。白血球は、体内に侵入した細菌やウイルスを攻撃する際に活性酸素を発生させて、それらを分解・無力化するのです。この働きがあるおかげで、私たちは病気から身を守ることができます。
  • また、活性酸素は細胞同士の情報伝達(シグナル伝達)にも関わっています。たとえば、傷を負った際にその情報を周囲の細胞に伝え、修復を始めるきっかけになるのも、ある種の活性酸素による反応です。このように、活性酸素は適切な量であれば、体にとって非常に有益なのです。

活性酸素の”悪い面”

  • しかし問題は、活性酸素が「過剰に」発生した場合です。活性酸素は非常に反応性が高いため、体の中の大切な構造、たとえば細胞の膜、タンパク質、さらにはDNAまでも攻撃してしまいます。これによって細胞がうまく働けなくなったり、異常な細胞(がん細胞)に変化したりする可能性があるのです。
  • このような状態は「酸化ストレス」と呼ばれ、加齢や生活習慣病、がんの原因の一つとされています。つまり、活性酸素は量がちょうど良ければ体に役立ちますが、多すぎると逆に体を傷つける危険があるのです。

大切なことは

  • 活性酸素を「敵」か「味方」かと単純に考えるのではなく、「どう付き合っていくか」が大切なのです。

【活性酸素を生み出す生活習慣とは】

  • 私たちの生活の中には、活性酸素を増やす要因が数多く存在します。紫外線、喫煙、アルコール、ストレス、激しい運動、大気汚染、食品添加物などがその代表です。 こうした影響を受けると体内の「酸化ストレス」が高まり、細胞がダメージを受けやすくなります。これを防ぐためには、ビタミンCやE、ポリフェノールなどの抗酸化物質を摂取し、バランスを保つことが重要です。

【活性酸素と病気の関係】

  • 活性酸素が細胞のDNAに損傷を与えると、遺伝情報が書き換えられ、細胞のがん化につながる可能性があります。特に喫煙者における肺がん、慢性的な炎症を伴う腸疾患からの大腸がん、動脈硬化からの心筋梗塞など、活性酸素が関与する疾患は多岐にわたります。アルツハイマー病などの神経変性疾患にも、活性酸素の関与が指摘されています。

【活性酸素と放射線の意外な関係】

活性酸素は主役のひとつ

  • 放射線治療は、がん細胞のDNAを損傷させて死滅させる治療法です。このDNA損傷の多くは、放射線が直接DNAに衝突するのではなく、水分子を介して活性酸素を生成し、それがDNAを攻撃することで生じます。つまり、放射線治療の主役のひとつが「活性酸素」なのです。

放射線による活性酸素発生のメカニズム

  • 体の60〜70%は水分でできています。放射線がこの水分に当たると、水の分子(H₂O)が分解され、「水ラジカル」と呼ばれる反応性の高い物質が生じます。この水ラジカルはすぐに他の分子と反応し、ヒドロキシラジカル(·OH)や過酸化水素(H₂O₂)などの活性酸素を生成します。これらの活性酸素は非常に反応性が高く、近くにあるDNAに強力なダメージを与えるのです。

直接作用と間接作用

  • 放射線が直接DNAに衝突して損傷を与える仕組みは「直接作用」と呼ばれ、放射線が活性酸素を間接的にがん細胞を攻撃する仕組みは、「間接作用」と呼ばれます。放射線治療によく用いられるX線の場合、間接作用による影響の方が直接作用によるものより約3倍も大きいといわれています。

「低酸素細胞」と放射線治療

  • このため、放射線治療の効果を高めるためには、がん組織内に十分な酸素が存在することが重要です。酸素が不足している「低酸素細胞」では、活性酸素の生成が不十分になり、放射線の効果が低下しやすくなります。治療成績を上げるためには、いかにして酸素をがん組織に届けるかという視点も欠かせません。

【放射線治療における「酸化」の力をどう使うか】

「KORTUC」

  • 近年では、活性酸素をコントロールして放射線治療の効果を高める研究が進んでいます。例えば、放射線によって生じる活性酸素の量を増やす薬剤(放射線増感剤)や、逆に正常組織を守るために活性酸素を抑える抗酸化剤の併用などが検討されています。
  • その中でも注目されているのが、日本で開発された「KORTUC(コータック)」という治療法です。KORTUCは、放射線治療の効果を高めるために、過酸化水素と酸素をがんのある部位に直接注入する方法です。過酸化水素は体内で分解されるときに活性酸素を発生させます。これにより、放射線とともにがん細胞のDNAをより強く傷つけることができます。
  • また、KORTUCはがん細胞が持つ「抗酸化酵素」の働きを抑える成分も含んでおり、がん細胞が活性酸素から自分を守る力を弱める効果もあります。結果として、放射線による酸化ダメージがより強く作用し、がん細胞を効果的に死滅させることが期待されます。

【まとめ:酸化と共に生きる私たちへ】

  • 活性酸素は、私たちの身体にとって危険であると同時に、なくてはならない存在でもあります。日常生活での酸化ストレスを抑える工夫をしながら、医療の現場ではその「酸化の力」をがん治療に活かしていく。そんな両面性こそが、活性酸素の本質なのかもしれません。特に、放射線治療においては、活性酸素のはたらきを巧みに利用することで、がん細胞に対する攻撃力を高めています。今後も、KORTUCのような新たなアプローチが進化することで、治療の選択肢がさらに広がっていくでしょう。
  • 今後、さらに活性酸素を活用したがん治療の研究が進めば、より安全で効果的な治療が実現することが期待されます。

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  • 高橋 正嗣
  • 彩都友紘会病院 医局長、放射線科部長

専門分野:放射線治療、高精度放射線治療全般
専門医資格:放射線科専門医、日本放射線腫瘍学会認定医、日本医学放射線学会研修指導者

〒567-0085 大阪府茨木市彩都あさぎ7丁目2番18号

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